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Laboratory for Plant Cell Technology, Research Institute for Bioresources and Biotechnology, Ishikawa Prefectural University.

研究内容(小林高範 教授)RESEARCH

■植物の鉄欠乏応答、鉄感知メカニズムの解明

  すべての生物は鉄がなければ生きていけません。植物は鉄を土壌から吸収して育ちます。鉄は土壌中に多く含まれていますが、そのほとんどは水に溶けておらず植物は吸収できないため欠乏しやすい元素です。鉄欠乏による作物の生育不全および収量の低下は世界各地の農業現場で問題になっています(図1)。また、ヒトにとっても鉄の不足は鉄欠乏性貧血をはじめとする様々な障害を引き起こします。ヒトは必要な鉄のほぼすべてを植物から得ています(家畜も植物飼料を食べて育ちます)。したがって、植物に含まれる鉄はヒトの健康維持に欠かせません。植物がどのように土壌中から鉄を吸収しているのかを理解することは、作物の生産性向上だけでなく、ヒトの健康増進にも役立ちます。

  図1 鉄欠乏のイネ(左)、モモ(右)
  葉が黄白化し生長が制限される

  私たちの研究室と、その前身である東京大学大学院の森敏名誉教授、西澤直子名誉教授の研究グループでは、植物がどのように鉄を吸収しているのか、またどのように鉄を植物全体へ分配し利用しているのかについて主に分子生物学的手法で明らかにしてきました。植物は体内の鉄が足りないことをセンサー分子によって感じ取ると、スイッチ分子である転写因子(トランス因子)がシス配列に結合することにより鉄の吸収や利用を行う遺伝子の発現をスイッチオンして、積極的に鉄を吸収しようとします(図2)。私たちは、これまでにこのような鉄欠乏応答を制御するシス配列や転写因子、さらにセンサー分子の候補を明らかにしました。現在は、このセンサー分子の候補HRZが、どのように鉄欠乏シグナルを感知して伝達するのかを詳しく調べています。これらの研究によって植物の鉄欠乏応答の全貌を明らかにすることにより、有用植物の開発につなげたいと考えています。

  図2 植物の鉄欠乏応答(左)、センサー分子とスイッチ分子(右)


■不良土壌でもよく育つ植物、鉄などのミネラルを多く含む作物の開発

  世界の土壌の30%は石灰質土壌と呼ばれる生産性の低い不良土壌です。石灰質土壌では鉄が非常に溶けにくいため、鉄欠乏が作物生育の主要な制限要因となっています。このような不良土壌において植物の生産性を画期的に上げることができれば、食糧増産ばかりでなく、大気中の二酸化炭素を効率よくバイオマスエネルギーに転換することが可能になります。私たちは分子生物学的手法によって石灰質土壌のような不良土壌でもよく育つイネの作出に成功しました(図3)。現在は、より生育の優れたイネの作出を続けています。

  図3  石灰質土壌による圃場試験
  左、鉄の吸収を強化したイネ 右、通常のイネ


  世界保健機構(WHO)によると、世界で毎年80万もの人々が鉄欠乏や亜鉛欠乏によって命を落としています。さらに、世界の約30億人、日本人の女性と子供の約40%が鉄欠乏であると言われています。鉄欠乏は鉄欠乏性貧血だけでなく、免疫力・認知機能の低下などさまざまな問題を引き起こします。コメなどの穀物に含まれる鉄や亜鉛を増やすことが出来れば、毎日の食事からこれらのミネラルを多く摂取することができ、欠乏症の予防や軽減につながります。そこで、鉄や亜鉛の吸収や輸送および鉄欠乏応答、鉄感知に関わる研究成果を応用して、不良土壌でもよく育つだけでなく、コメなどの可食部に鉄などのミネラルを多く含む作物の開発を行っています(図4)。

  図4  鉄含量を高めた米
  左:通常の米、右:鉄含量を高めた米 (鉄を青く染めています)


これらの研究内容が、Webメディア「SDGs 大学プロジェクト × Ishikawa Prefectural Univ.」に掲載されました。


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